インドネシア・スラウエシ島での紅茶栽培

網野 好幸 氏

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 これはJICA(国際協力事業団)の融資を受けて山陽国策パルプ株式会社(現日本製紙株式会社)が実施したスラウエシ島マリノ地区での紅茶栽培試験、その後を引き継いだ三井農林(株)と現地法人 PT DHARMAとの合弁企業である PT NITTOH MALINO TEHによる茶園拡大および製茶工場の建設・運転にいたる約16年間、現地に張り付いて担当した筆者の記述である。

1 事業開始のいきさつ
 山陽国策パルプは当時スラウエシ島内で木材開発を目的とした合弁会社を現地法人と展開していて、その側面援助を兼ねて南方での資源開発を図るための一環で紅茶栽培が計画された。
 紅茶栽培が取り上げられた理由は
  1. インドネシアのジャワ島、スマトラ島では紅茶が栽培されている。スラウエシ島には茶園はないが、近隣なので栽培は可能と思われる。
  2. 品質の良い茶を得るためには生葉の収穫は手摘。現地の労務費は安いので条件は良い。
  3. 紅茶園づくりは農業。現地も農業地帯なので、現地人にそれなりの経験があり、教育も容易である。
  4. 野菜、穀類と異なり、木の葉を収穫するので、豊作、不作の波が少ない。
  5. 会社には海外各地で実施したパルプ用材の植林技術の蓄積がある。
  6. 将来工場建設にいたった場合、日本の製茶業者が資金、技術の面で参加し、生産された製品は全量買い取る意思を表明している。
等々である。

2 紅茶の栽培試験
 前述の通りスラウエシ島には紅茶園はない。問題はないとは思えるが、成功に確信がもてたわけではない。そのため、小規模で紅茶の栽培試験をすることでJICAの3号融資の対象となった。
 内容は30haの紅茶園を5年間で造成、融資額は8千万円、10年据置、25年分割返済、年利0.75%、昭和51年のスタートとなった。30haとした理由は紅茶製造機械ワン・ラインの最低生産能力が荒茶で約30t/年、インドネシアの茶園の生葉摘採量が荒茶換算で約1t/年/haと推定されたので、機械の能力に合わせたものである。
 土地はパートナーの現地法人がインドネシア林業省所管地200haの面積について使用権を取得した。これは25年間の期限付きであるが、申請により問題なければ自動的に再延長が認められる。ただし許可条件として、林業省指定の土地に2倍の400haの植林を行うか、またはそれに代えてその費用を支払うことが課せられている。後者をとったが、支払額は12万アメリカドルであった。
 この試験栽培はほぼ成功裏に終了したが、山陽国策パルプの方針により撤退となり、その後は三井農林が引き継ぎ、同時に現地法人との合弁会社PT NITTOH MALINO TEHが設立され、約130haに拡大された茶園と併設の製茶工場を持つ会社として現在にいたっている。

3 茶園の位置、地勢、気候、土壌
 スラウエシ(旧セレベス)島はインドネシアのカリマンタン島とイリアン・ジャヤ(ニューギニア島)の中間にあり、南西側に延びる半島の先端にあるマカッサル市から東方へ約50kmのところに茶園用地がある。南緯約3°である。当初、電気、水道のインフラはなく、郵便、新聞も届かず、唯一の情報源はラジオである。最近になって公営の電気が引け、テレビの視聴が可能となったばかりである。
 茶園用地は海抜約1,500m、2,500m級の南北に連なる山脈を東側に背負い、西側はセレベス海峡が一望できる高原である。
 雨量は年間2,000〜3,000mm、これは11月頃から翌年の3月頃までの雨季に集中し、乾季は全くと言ってよいほど降雨はない。乾季の後半には山々は褐色を帯び、樹種によっては落葉も見られる。この時期、茶樹も芽の伸びが少ないため工場の運転停止がしばしばある。気温は乾季で最高約25℃、最低約20℃、雨季には最高でも20℃を下回ることがある。
 土壌のPhは約6、茶樹に適するPhは4〜6といわれているので、やや高いがアルカリ性ではないので問題は少ないと判断した。
 有効土層すなわち作土の調査では、植物根は浅いところでも地表面下60〜70cmの深さに達しており、その深さで硬度計は約25を示しているので、これも問題なしと判断された。しかし、一見したところ有機物が不足しているようなので、コンポストの使用による土壌改良の必要はありそうに思えた。
 地形は多少の起伏はあるものの急峻なところはなく、一望では300ha位の茶園開設は可能に見えた。
 試験栽培の開始当初、現地の住民から、第2次大戦中駐屯していた旧日本軍が植えた茶樹が残されているとの話を聞いた。遠隔の山奥であったが行ってみたところ、明らかに人工植林で、胸高直径20cm前後、樹高は10m近くのものが数十本も稙生していた。樹種はジャワ島在来種であった。試験栽培について成功するか一抹の不安を抱いていたが、長期間放置しても良好な植生をしているこの状況を見て、確信がもてた。

4 労務者の募集、労働条件、給与等
 住民はブギス・マカッサル族、全員ムスリムである。周辺に水田はなく、雑穀、野菜等の栽培で生計を立てている。
 広報手段のないこの社会での労務者募集は回教礼拝を利用する。数名の住民にその旨を話しておけばよい。彼等はお祈りのため頻繁に回教寺院に集まるが、そこはまた情報交換の雑談の場でもあるので、話を聞いた住民の応募者が早速にも多数参集してきた。以後も作業の規模、内容により増員するときも同じ方法によった。
 就労時間は06:30から14:00。これは帰宅後、各自の農作業に従事できるよう配慮したものである。  労賃は現地人の主食の米の価格を付近のパサール(市場)で調べて決めた。1人1日当たり0.5L、標準的家族を夫婦と子供3人とみて、2.5L、米1Lは100ルピアなので、日当を250ルピアとした。当時の為替レートから、約100円である。その後の給与改定のときにも、米の価格を基準にした。
 作業に使う農具は、支給や貸与すると公私混同で使う恐れがあるので、各自の私物を持参させて使った。現地人の使う農具は、唐鍬、刃渡り30cm位の蛮刀、面の平らな移植鏝の3種類が主に使われ、とくに移植鏝は万能で、ほとんどの作業を現地人は器用に操って使用している。

5 育苗
 苗木はha当たり約2万本が必要であり、そのため母樹園を先行して作り、そこから苗木用の挿木をとることにした。
 なお、茶樹はツバキ(山茶)科で、学名はアツサム種の紅茶でCamellia assamicaである。
 母樹園用の挿木とタネはジャワ島の在来種を取り寄せた。挿木からの育苗は手数がかかり費用もかさむのでタネも併用したが、交受粉されているためほとんどが雑種である。しかし、その中から繁茂状態の良いものは母樹とすることにした。挿木の茎の長さは約10cm、葉は1枚、撫育状況にもよるが、挿して約1ヶ月で葉の付け根から発芽する。
 タネは砂の中に埋め、乾燥しないように時々散水すると、2〜3週間で表皮に亀裂が入るのでこれを取り出し、未だのものは元に戻す。この操作を何回か繰り返す。
 育苗用のビニール・ポットは幅10cm、長さ20cmのビニール袋を用い、周囲に小穴を開け、土壌8と砂2を混合して入れる。
 苗床は割竹を使い、幅0.8m、高さ0.1m、長さ12mの枠を作って地面上に置き、その中にポットを並べて詰める。いくつかの苗床をワン・ブロックとし、角材、割竹でハウスを作り、天井部は現地に自生するワラビの葉を取り付け遮光する。ワラビの葉は扇状なので遮光度の調整作業が容易で、且つ、互いに絡み合うため風で飛散しにくい利点がある。ポットへ挿木した直後は遮光率を75%位にする。ポットへの挿木またはタネの埋め込みを終わったら散水し、苗床毎カマボコ型にビニール・シートで覆って密閉する。シートの内側は水滴が常時付着している状態に管理する。
 以後は発芽、発根状況を調べ、逐次遮光のワラビを少なくして日照量を増やす。当初はポットに入れる土壌を滅菌したり、挿木には成長ホルモンや殺菌目的でボルドー系の銅水和剤を使用したが、発根、生育は使用しないものと差が見られなかったので、この処理は省略した。時折、化学肥料の施肥を兼ねて散水していくと、1年ぐらいで成苗が得られる。
 ビニールポットは経費・手間がかかるので、直接に苗床の土壌面への挿木も試みたが、本圃への移植のとき、根に付着した土が作業の過程で脱落しやすく、活着率が悪くなった。
特にタネからの苗は牛蒡根になるため、移植にあたって堀り出すとき根を切断することが多く、それが原因で成木化が遅れたり、成木になっても生葉収量が低い結果になった。
 したがって、苗床への直挿し、直播による育苗は行っていない。

6 開墾
 前述したが、茶樹は酸性土壌を好むので、焼畑式はとらない。作業は主に鍬を使う人力によった。この土地は廃園となったコーヒー園の跡地のため、大部分が雑草地であり作業は比較的容易である。
 作業にあたっては現場の状況に応じ数名から数十名の単位で班を組み、班長を任命して監督にあたらせたが、地域社会が狭いので作業員は親子、兄弟、親戚、友人、知人の集団になり、タガの緩い監督になってしまう。
 また、用地の中には住民が耕作して畑になっている場所がある。補償金で立ち退いてもらうため、現地の習慣に従って村長に仲介を依頼した。現地人の間で、たとえば親の遺産相続について相続者間で合意がないときは村長が裁く等、村長の権威は大きくその決定には従うとのことである。

7 茶畑の造成
 基本的に茶畑の1枚は25m×25m、肥料や機材の搬出入、生葉の出し等に対応できるように茶畑と茶畑の間には4mまたは2mの通路を取る。茶畑16枚が1haである。
 しかし、地形、岩盤が近くて作土が浅い、水源確保、幹線道路取り付け等の都合で基本通りとならず、各茶畑は形状も面積も様々になる。高卒者も何名かいるが、出入りのある複雑な形をした畑の面積計算はダメである。肥料、人工数、生葉収量算出等の茶園管理はha当たり、アール当たりで計算するが、煩雑で間違いの元になりやすいので、茶畑の形状は複雑でも1枚は25m×25mの1/4、1/2、3/4、5/4、3/2等の面積になるよう設計した。

8 成苗の植付け
 作業は乾季を避け雨季に行った。植付は株間50cm、条間30cm、畝間180cmの2条(千鳥)植えである。作業管理に当を得れば活着率はきわめて良い。活着しないものは抜き捨て補植する。活着した苗木は硬い雑草、樹木の小枝などを使ってベンディングする。これは横方向へ枝を早く張らせ、成園化のスピードを早める目的がある。

9 施肥、除草、病害虫防除等
 施肥は生葉の収量、根のNPK吸収力と3成分の空中への蒸散、土壌からの流亡、Ph調整、土壌硬度改良等を総合的に判断して行う。
 幼木期には土壌改良の目的もあって、稲藁を根元に敷くことも何回か行ったが、現地の稲藁は日本のものに比べ、細くて短いうえ折れやすく軟らかい。収穫は穂先だけとって田に放置するためほとんど倒伏しているので、集荷作業は困難を極めた。
 土壌へのN補給を兼ね、現地に自生するまめ科の樹木を日陰樹として植えることも一部の茶畑で試みたがその効果は見られない。
 除草には除草剤の使用は避け、人力によった。この方が仕上がりの見映えが良いうえ、除草剤費の分を労務者の収入に回せるためであり、これによる経費差はあまりない。
 虫害の発生はまったくみられなかった。病害は担子菌(Exobasidium)によるモチ病がある。若い葉、特に新芽が選択的に侵され、薬剤として銅水和剤があるが、多量頻繁に散布しないとかえって菌の抵抗力を強めるばかりでなく、この病害は雨季中に発生するので、降雨による流亡がある等の問題のため現在は行っていない。対策として、モチ病の発生が予見されたら、生葉収量が少なくなろうとも直ちに摘採するか、発生したら剪枝機で浅く仕立て病害葉を切り落とす等を講じた。また、これにより無農薬茶が製造できる。

10 収穫
 乾季末の一時期を除き年間を通して茶摘みできるので、収穫は回り摘みとした。全茶園をいくつかのブロックに分け、順次ワン・ブロックづつ摘んで、何日目かの後再びスタートのブロックに戻ることになる。
 摘み採りはしごき手摘みにより一芯二葉でとる。一時、手摘みを出来高払いとしたが、重量を増やそうとして、五葉、七葉の硬い葉まで摘む労務者がいるため、現在は時給払いにしている。
 摘採した生葉は直ちに工場へ搬入となる。

11 仕立
 摘採を終った茶樹は可搬型の剪枝機で摘採面を浅く切り揃え、次の発芽を促進させる。摘採面があまり高くなると、摘採作業がやりにくくなるので、80cmを超えたら台刈りし、60cmに下げる。茶樹の年数が経つにつれ、芽の出る勢いが落ち、そのうえ芽の大きさが小さくなるので、茶樹を若返らせることも台刈りの目的である。切る回数が多いほど芽がつまり、生葉収量が増す。  摘採面は平らなテーブル型の仕立てを行い、日本で多くみられるカマボコ型はとらない。基本的には摘採面積の大きいほど生葉収量は多いが、日本でカマボコ型をとっている理由に遅霜対策がある。カマボコ型を小口から見た場合、時計にたとえると、12時、1時の位置は霜発生のとき気流が滞留するが、2時、3時のところは気流に直接さらされない。しかし、12時、1時のところは茶樹の中心部なので、生葉収量は多く、2時、3時のところはそれより少なくなる。  一方、テーブル型は摘採全面が12時、1時の位置なので、摘採面積はカマボコ型より狭いが、生葉収量は優とも劣ることはない。  テーブル型は茶樹の上部をカットするだけの作業なので作業は簡単容易であり、したがって遅霜の全く心配のないインドネシアではテーブル型をとっている。  摘採可能年数については分からないが、日本の場合、7年目位まで育成期間、その後35年間で償却と税務署は見ていることから、管理が良ければ40〜50年間は商業ベースにのった摘採は可能と考えている。しかし、年間を通して芽の発生が続き、日本と違って寒い時期の休眠がないので、インドネシアの方が短いのではないかとも考えられる。

12 製茶工場
 BOPタイプの揉捻機のあとにローター・バン(押切型揉捻機)を組み込んだOrthodox方式である。  工程は以下の通り。
  1. 遠心分離:生葉が濡れている場合に脱水。
  2. 萎凋:葉を乾燥させる。萎凋香が最高になった時点で揉捻機に落とす。
  3. 揉捻:葉に重圧をかけて揉み、含まれるカテキン類の空気による酸化を行う。
  4. ローター・バン:更に揉捻を強化するとともに切断も行う。
  5. 篩分:粗いものと細断されたものを分け,粗いものはローター・バンに戻す。
  6. 発酵:温度20〜25℃、湿度90%以上に調整した室内に放置する。この際、過発酵にならないよう注意する。時間は60分位である。原料はやや紅色を呈するようになり、紅茶香気を放ってくる。
  7. 乾燥:熱風を当て、一気に発酵をとめる。
  8. 仕上げ:電気選別機で茎等を除いた後、ふるいにかけて粒度で分ける。粒度の大きいものから小さいものへ、順に次のようになる。
    1. Orange Pekoe(リーフ・ティー)。OPと言われる。
    2. Broken Orange Pekoe (短時間で浸出液に色が出るので、ティー・バッグ用)BOPと言われる。
    3. Broken Orange Pekoe Fannings (ティー・バッグ用)BOPFと言われている。
    4. Dust (ティー・バッグ用)
    5. ドロ粉  廃棄
 製品は水色、香気、味の3要素について鑑定し、格付別に混合、市販用に処理される。
 操業当初、現地人は電気設備の取り扱い、機器類の運転について全く無知のため危険行為が多く、水道の蛇口を見たことも触れたこともないので、力任せで開閉するためすぐに破損させる等々の問題を起こすことが多かったが、現在では操業も順調に行われている。


著者経歴
網野 好幸 氏
1950年国策パルプ工業株式会社(現日本製紙)入社。研究所・開発室勤務。1985年山陽国策パルプ株式会社(現日本製紙)退社。1986年三井農林株式会社 入社。1988年PT NITTOH MALINO TEH取締役就任。1992年三井農林株式会社退社。


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